組織構造は「何で部門を切るか」で決まる
組織構造の類型は、突き詰めると分業の切り口(部門化の基準)をどこに置くかの違いです。仕事の種類で切れば機能別組織、製品や市場で切れば事業部制組織、両方で同時に切ればマトリックス組織になります。この一点を押さえると、あとの長所・短所はすべて論理的に導けます。
企業経営理論では、名称と特徴の組合せを問う問題に加えて、「どの状況でどの構造が適合するか」を問う問題も出ます。暗記だけでなく、選択基準まで理解しておきましょう。
4類型の比較
| 観点 | 機能別(職能別)組織 | 事業部制組織 | マトリックス組織 | カンパニー制 |
|---|---|---|---|---|
| 部門化の基準 | 製造・営業・開発などの職能 | 製品・地域・顧客などの事業単位 | 職能と事業の二軸 | 事業単位(社内分社) |
| 意思決定 | 集権的(トップに集中) | 分権的(事業部長に委譲) | 二重の指揮系統 | 事業部制よりさらに分権的 |
| 専門性の蓄積 | 高い(同職能が集まる) | 低い(職能が事業部ごとに分散) | 高い(職能軸が残る) | 低くなりやすい |
| 規模の経済 | 働きやすい | 重複投資が生じやすい | 中程度 | 重複が生じやすい |
| 環境変化への対応 | 遅い | 速い | 速いが調整コスト大 | 速い |
| 業績責任 | あいまい(全社損益でしか測れない) | 事業部ごとに明確(利益責任) | あいまいになりやすい | 最も明確(投資・貸借対照表まで責任) |
| 人材育成 | 職能の専門家が育つ | 経営者人材が育つ | 調整力のある人材が育つ | 経営者人材が育つ |
| 主な弱点 | セクショナリズム、トップの過負荷 | 事業部間の壁、短期志向、資源の重複 | 命令の一元性が崩れ、コンフリクトが生じる | 全社シナジーの喪失 |
機能別組織
単一事業で規模を追う段階に適します。同じ職能の人材が一箇所に集まるため専門性と規模の経済が働きますが、部門間の調整はすべてトップに上がるため、事業が多角化するとトップが意思決定のボトルネックになります。また各部門は自部門の目標しか持たないため、部門最適に陥るセクショナリズムが起きやすいのが典型的な弱点です。
事業部制組織
製品別・地域別に事業部を置き、事業部長に**利益責任(プロフィットセンター)**を持たせます。トップは日常の意思決定から解放され、全社戦略と資源配分に専念できます。これがチャンドラーの「組織は戦略に従う」で示された、多角化と事業部制の対応関係です。
半面、事業部ごとに製造や営業を抱えるため経営資源の重複が生じ、事業部間で人材や技術が共有されにくくなります。また事業部の評価が単年度の利益で行われると、長期投資を避ける短期志向を招きます。
マトリックス組織
職能軸と事業(プロジェクト)軸を掛け合わせ、一人の担当者が2人の上司を持つ構造です。専門性の蓄積と市場対応の速さを両立できる理想形に見えますが、命令一元化の原則が崩れることが最大の問題です。2人の上司の指示が矛盾したときに担当者が板挟みになり、調整に多大な時間がかかります。導入には権限配分の明確な取り決めと、コンフリクトを処理できる組織文化が前提になります。
カンパニー制
事業部制をさらに進め、社内分社に投資の権限と貸借対照表上の責任まで持たせる形態です。事業部制がおもに損益責任にとどまるのに対し、カンパニー制は資産効率まで問われる点が試験での識別ポイントになります。分権を極めるぶん、全社シナジーが失われやすいというトレードオフを抱えます。なお、法人格を分けて完全に別会社化するのが持株会社(ホールディングス)制で、カンパニー制はあくまで社内の制度である点を混同しないようにしましょう。
選択の基準
構造の選択は、次の3つの適合(コンティンジェンシー理論の考え方)で判断します。
- 環境の不確実性:安定した環境なら機能別(効率重視)、変化が速く多様なら事業部制やマトリックス(対応力重視)。バーンズとストーカーの機械的組織/有機的組織の対比がこれにあたります。
- 事業の多様性:単一事業なら機能別、製品・市場が多様化したら事業部制。
- 経営資源の共有ニーズ:事業間で技術や設備を強く共有したいなら、分割しすぎず機能別やマトリックスを残す。
いずれの構造にも「効率(専門化・規模の経済)」と「対応力(分権・自律)」のトレードオフがあり、万能の構造は存在しないというのが結論です。事例問題では「今どちらが不足しているか」を読み取り、不足を補う方向の構造を提案するのが定石になります。