投資判断は「利益」ではなく「キャッシュフロー」で行う

設備投資の意思決定では、会計上の利益ではなく**キャッシュフロー(CF)**を使います。理由は2つあります。ひとつは、割引現在価値の計算は実際に手元に入る現金でしか意味をなさないこと。もうひとつは、減価償却費が「現金の支出を伴わない費用」だからです。

ただし減価償却費を「無視してよい」わけではありません。課税所得を減らして税金を減らすという形で、キャッシュフローに確かな影響を与えます。この節税効果を**タックスシールド(tax shield)**と呼びます。

税引後キャッシュフローの2つの計算式

税率を t、現金収入から現金支出を引いた税引前の営業キャッシュフローを CF、減価償却費を D とすると、税引後CFは次の2通りに書けます。

  • 積上げ式:税引後CF =(CF − D)×(1 − t) + D = 税引後利益 + 減価償却費
  • 分解式:税引後CF = CF ×(1 − t) + D × t

分解式の第2項 D × t がタックスシールドです。両式は代数的に同じもので、展開すれば一致します。試験では計算の速い分解式を使い、心配なら積上げ式で検算する、という二段構えが安全です。

例題で確認する

初期投資額3,000万円、耐用年数5年、定額法・残存価額ゼロ。毎年の税引前営業キャッシュフローは1,200万円。法人税率30%、資本コスト10%(年金現価係数5年=3.7908)。

手順1:減価償却費 3,000万円 ÷ 5年 = 600万円/年

手順2:税引後CF(分解式) 1,200 × (1 − 0.3) + 600 × 0.3 = 840 + 180 = 1,020万円/年

検算(積上げ式) 会計上の利益は 1,200 − 600 = 600万円、法人税は 600 × 0.3 = 180万円、税引後利益は 420万円。ここに現金支出のない減価償却費600万円を足し戻すと 420 + 600 = 1,020万円。一致します。

手順3:NPV 1,020 × 3.7908 = 3,866.6万円。ここから初期投資を引いて 3,866.6 − 3,000 = +866.6万円 → NPVがプラスなので採用

なお、タックスシールドだけの現在価値は 180 × 3.7908 = 682.3万円あります。減価償却費を無視して 1,200 × 0.7 = 840万円で計算してしまうと、NPVは 840 × 3.7908 − 3,000 = +184.3万円と大幅に過小評価され、採否が逆転しかねません。ここが最頻出のひっかけです。

回収期間法との比較

同じ設例を回収期間法(ペイバック法)で見てみます。

単純回収期間 3,000 ÷ 1,020 = 約2.94年

割引回収期間 各年の税引後CFを10%で割り引いて累計します。

現価係数 現在価値 累計
1年目 0.9091 927.3 927.3
2年目 0.8264 843.0 1,770.3
3年目 0.7513 766.3 2,536.6
4年目 0.6830 696.7 3,233.3
5年目 0.6209 633.3 3,866.6

3年目までで2,536.6万円、4年目に3,000万円を超えます。不足額 3,000 − 2,536.6 = 463.4万円を4年目の696.7万円で按分すると 463.4 ÷ 696.7 = 0.67年。よって約3.67年です。単純回収期間より必ず長くなる点も押さえておきましょう。

観点 NPV法 回収期間法
貨幣の時間価値 考慮する 単純法は考慮しない
回収後のCF 全期間を評価 無視する
判断基準 ゼロより大きいか(理論的に明確) 目標年数(恣意的)
長所 企業価値の増加額そのものを示す 計算が容易、資金繰りリスクの目安になる

回収期間法の最大の弱点は、回収後のキャッシュフローを完全に無視することです。5年目以降も稼ぐ長期案件が、初期に集中して稼ぐ短期案件に負ける、という逆転が起こります。理論的にはNPV法が優れており、回収期間法は「資金繰りが厳しい中小企業での補助的な指標」と位置づけるのが試験上の理解です。

計算で落としやすい論点

  • 埋没原価は無視する:すでに支出済みの調査費などは、採否で変わらないので算入しません。
  • 機会原価は算入する:遊休地を使うなら、売却・賃貸で得られたはずの収入を costs として織り込みます。
  • 運転資本の増加は投資時のマイナスCF、期末の回収はプラスCFとして扱います。
  • 売却損益の税効果:期末に簿価と異なる金額で売却したら、売却益なら課税、売却損なら節税の分をCFに反映させます。

これらは「差額(増分)キャッシュフローだけを見る」という一本の原則から導けます。式を丸暗記するより、この原則に立ち返るほうが応用が利きます。