なぜ「式の暗記」は本番で崩れるのか

経営分析の指標は数が多く、しかも似ています。総資本回転率と総資本利益率、当座比率と流動比率、労働生産性と労働装備率。これらを式ごと丸暗記すると、本番の緊張下で分子と分母が入れ替わるという事故が起きます。しかも2次試験の事例IVでは、与えられた財務諸表から自分で指標を選んで計算するため、覚えていない指標が出た瞬間に手が止まります。

解決策は単純です。指標を「何を測りたいか」で分類し、式は意味から組み立てる。この2ステップに切り替えると、覚える量が激減し、初見の指標にも対応できるようになります。

5分類——何を測りたいのかで棚を分ける

まず、すべての指標を次の5つの棚に振り分けます。

分類 測っているもの 代表的な指標
収益性 どれだけ儲かっているか 売上高総利益率、売上高営業利益率、ROA、ROE
効率性 資産をどれだけ働かせているか 総資本回転率、売上債権回転率、棚卸資産回転率
安全性 支払いに耐えられるか 流動比率、当座比率、自己資本比率、固定長期適合率
生産性 人がどれだけ付加価値を生んだか 労働生産性、労働分配率、労働装備率
成長性 伸びているか 売上高成長率、経常利益成長率

この分類が効くのは、事例で悪化している項目を見たときに「どの棚から指標を選ぶか」が即座に決まるからです。「売れているのに資金が苦しい」と書いてあれば効率性と安全性の棚、「人手不足で人件費が重い」とあれば生産性の棚。棚が決まれば、あとは棚の中の2〜3個から選ぶだけになります。

式は「分母=元手、分子=成果」から導く

比率の指標は、ほぼ例外なく分母に投入したもの、分子に得られたものを置きます。この一点を握るだけで、多くの式は自力で復元できます。

収益性は「元手=資本、成果=利益」。だから ROA=利益 ÷ 総資本、ROE=当期純利益 ÷ 自己資本 です。ROEの分子が当期純利益なのも意味から出ます。自己資本は株主の持ち分ですから、株主の取り分である税引後の利益と対応させなければ噛み合いません。売上高○○利益率も同じで、元手を「売上高」に置き換えただけです。

効率性は「元手=資産、成果=売上高」。だから回転率=売上高 ÷ 資産 です。総資本回転率、売上債権回転率、棚卸資産回転率はすべてこの型で、資産の部分が入れ替わっているにすぎません。「回転は売上高が上」と1つ覚えれば全部作れます。一方、回転期間は「その資産が売上の何か月分あるか」を見たいので、上下がひっくり返って 資産 ÷ 売上高 になります。率と期間は逆数の関係——これも意味から出る性質です。

安全性は分母・分子ではなく貸借対照表のどこ同士を比べているかで考えます。流動比率は流動資産 ÷ 流動負債で、1年以内に出ていくお金に対して1年以内に入るお金が足りるかを見る。当座比率はその分子から棚卸資産を外したもので、「売れ残るかもしれない在庫を当てにしない」という、より厳しい見方です。当座比率が流動比率より厳しいという関係も、外した中身を思い出せば導けます。

生産性の中心は労働生産性=付加価値 ÷ 従業員数、すなわち1人あたりいくらの付加価値を生んだかです。ここから分解が効きます。付加価値 ÷ 従業員数 に「売上高」を挟むと(付加価値 ÷ 売上高)×(売上高 ÷ 従業員数)= 付加価値率 × 1人あたり売上高。「有形固定資産」を挟めば 労働装備率 × 設備生産性。掛けたい要素を分子と分母の間に挟むという操作で、分解式は現場で作れます。ROEをデュポン分解で3つに分けるのと、まったく同じ手つきです。

分子と分母を間違えないための3つの確認

式を書いたら、計算する前に次の3点を確認してください。3秒で終わり、事故がほぼ消えます。

  1. 単位が通るか。回転率は「回」、回転期間は「日」や「月」、生産性は「円/人」。単位が合わなければ上下が逆です。
  2. 良くなる方向が直感と合うか。売上が伸びたとき、その指標は上がるべきか下がるべきか。回転率は上がるほど良く、回転期間は短いほど良い。手元の式に大きい売上高を入れてみれば一瞬で判定できます。
  3. ストックとフローを対応させたか。損益計算書の数字(フロー)と貸借対照表の数字(ストック)を比べる指標では、BS項目に期首期末の平均を使うのか期末値を使うのか、問題の指示に従います。

学習の順番

最初にやるべきは、5分類の表を白紙に書けるようにすることです。次に、各棚の代表指標について**「分母は何を投入したものか」を言葉で説明できるか**を確かめます。式が書けるかではなく、意味が言えるかを基準にしてください。最後に過去問で、与件から悪化している棚を特定する練習をします。

この順で進めると、覚える対象は「5つの棚」と「分母=元手・分子=成果」という1つの原理だけになります。指標そのものは、そこから毎回作り直せばよいのです。