標準時間とは何か

標準時間とは、その仕事に習熟した作業者が、決められた方法と設備のもとで、通常の努力と速さで一単位の作業を完了するのに必要な時間です。生産計画の負荷計算、人員所要数の算定、標準原価の設定、賃率の決定など、工場管理の数字はすべてここから出発します。

標準時間は次の2つで構成されます。

  • 正味時間(主体作業時間+準備段取時間):付加価値を生む本来の作業時間
  • 余裕時間:本来の作業以外に、不可避的に発生する時間

標準時間 = 正味時間 + 余裕時間

余裕は次の4つに分類され、頭2文字で「人・用・作・職」と覚えると整理しやすくなります。

分類 内容
人的余裕(用達余裕) 生理的・人間的に必要 用便、水飲み、汗ふき
疲労余裕 疲労回復のための休息 重量物作業後の小休止
作業余裕 作業に付随して不規則に発生 工具の調整、切粉の除去
職場余裕(管理余裕) 管理上避けられない 材料待ち、朝礼、打合せ

このうち作業余裕と職場余裕をまとめて管理余裕、人的余裕と疲労余裕をまとめて人的余裕と大別する整理もあります。

正味時間はレイティングで補正する

ストップウォッチによる時間研究(直接時間研究)で得られるのは、あくまでその作業者のその日の観測時間です。速い人を観測すれば短く、遅い人なら長く出ます。そこで観測時間を「標準的なペース」に補正する操作がレイティングです。

正味時間 = 観測時間 × レイティング係数 ÷ 100

レイティング係数100が標準ペース、120なら標準より2割速い作業だったという意味です。速い作業を観測したのだから、標準時間は長く補正されます。「係数が大きい=正味時間が長くなる」という方向をここで確認しておきましょう。

内掛け法と外掛け法

余裕率の定義には2種類あり、分母が違います。

方式 余裕率の定義 標準時間の式
外掛け法 余裕時間 ÷ 正味時間 正味時間 ×(1 + 余裕率)
内掛け法 余裕時間 ÷ 標準時間 正味時間 ÷(1 − 余裕率)

「掛ける相手(分母)が外側の正味時間か、内側に余裕を含む標準時間か」と読むと取り違えません。同じ余裕率の数値なら、内掛け法のほうが標準時間は長くなります

例題

ある工程をストップウォッチで観測したところ、1個あたりの平均観測時間は0.75分だった。レイティング係数は120である。余裕率20%として、外掛け法・内掛け法それぞれの標準時間を求めよ。また1日の稼働時間480分での標準生産量を求めよ。

手順1:正味時間 0.75 × 120 ÷ 100 = 0.90分/個

手順2:外掛け法 0.90 ×(1 + 0.2)= 1.08分/個 検算:余裕時間は 1.08 − 0.90 = 0.18分。0.18 ÷ 0.90(正味時間)= 0.20 → 20%。定義どおりです。

手順3:内掛け法 0.90 ÷(1 − 0.2)= 0.90 ÷ 0.8 = 1.125分/個 検算:余裕時間は 1.125 − 0.90 = 0.225分。0.225 ÷ 1.125(標準時間)= 0.20 → 20%。こちらも定義どおりです。

手順4:標準生産量 外掛け法 480 ÷ 1.08 = 約444個 内掛け法 480 ÷ 1.125 = 約427個

同じ「余裕率20%」でも、方式が違えば1日あたり17個の差が出ます。問題文がどちらの方式かを必ず確認してください。

相互変換

内掛け余裕率を a、外掛け余裕率を b とすると、次の関係が成り立ちます。

  • b = a ÷(1 − a)
  • a = b ÷(1 + b)

上の例で確認すると、内掛け20%は外掛けでは 0.2 ÷ 0.8 = **25%**にあたります。実際、0.90 × 1.25 = 1.125分となり、内掛け法の答えと一致します。

ワークサンプリング

**ワークサンプリング(瞬間観測法)**は、作業者や機械をランダムな時刻に瞬間的に観測し、「稼働中だった回数の割合」から稼働率や余裕率を推定する手法です。時間研究と違い、観測者1人で多数の対象を同時に扱え、被観測者への心理的圧迫も小さいのが長所です。一方、作業方法の改善に必要な細かい要素作業の分析には向きません

必要な観測回数は二項分布の考え方から求めます。信頼度95%(係数2)、発生率 p、絶対精度 E とすると

N = 4 × p ×(1 − p)÷ E²

たとえば余裕の発生率が20%と見込まれ、絶対誤差±2%(0.02)に収めたい場合は

N = 4 × 0.2 × 0.8 ÷ 0.02² = 0.64 ÷ 0.0004 = 1,600回

精度を2倍に厳しくすると必要回数は4倍になる、という二乗の関係が試験での定番の問われ方です。