なぜ「割り引く」のか

投資の意思決定で最初につまずくのが「現在価値」の考え方です。今日の100万円と1年後の100万円は同じ価値ではありません。今日の100万円を年利10%で運用すれば1年後には110万円になるからです。逆に言えば、1年後の110万円は今日の100万円と等価です。この「将来のお金を今の価値に引き直す」操作が割引で、そのときの利率を割引率(=資本コスト、ハードルレート)と呼びます。

NPVもIRRも、この割引の考え方の上に立っています。

NPV(正味現在価値)の考え方

NPVは「投資から得られる将来キャッシュ・フローの現在価値の合計」から「初期投資額」を引いた金額です。

手順 内容
1 各年のキャッシュ・フローを見積もる
2 割引率で各年の現在価値に直す(毎年同額なら年金現価係数を掛けるだけ)
3 現在価値の合計から初期投資額を引く

判断基準はシンプルで、NPVがプラスなら採用、マイナスなら不採用です。プラスの金額は「資本コストを上回って生み出される価値」そのものなので、複数の案を比べるときはNPVが大きい案ほど企業価値を高めます。

試験でのひっかけは2つあります。ひとつは割引を忘れて単純合計してしまうこと、もうひとつは現在価値の合計を出した時点で安心して初期投資を引き忘れることです。問題文で年金現価係数が与えられていたら、「係数を掛けて、初期投資を引く」の2ステップを機械的に踏みましょう。

IRR(内部収益率)の考え方

IRRは「NPVがちょうどゼロになる割引率」です。言い換えると、その投資案が内部的に稼ぎ出している利回りです。

判断基準は IRRが資本コストより高ければ採用 です。年利7%で調達したお金を年利10%で回せる投資なら得、5%でしか回せないなら損、という直感どおりの基準なので、経営者への説明にも使いやすいのがIRRの長所です。

NPVとIRRはどこが違うのか

独立した投資案を単独で採否判断する限り、NPV法とIRR法の結論は一致します。違いが出るのは、どちらか一方しか選べない「相互排他的」な案を順位付けするときです。

  • 投資規模を反映できない: IRRは率なので、100万円で利回り20%の案と、1億円で利回り15%の案では、金額ベースの価値は後者が圧倒的に大きいのにIRRは前者を選んでしまう
  • 再投資の仮定が違う: NPV法は途中で得たキャッシュを資本コストで再投資すると仮定し、IRR法はIRRそのもので再投資すると仮定する。IRRが高いほど非現実的な仮定になる
  • IRRが複数出ることがある: 途中で大きな撤去費用が出るなど、キャッシュ・フローの符号が2回以上変わる案では、NPV=0となる割引率が複数存在しうる

このため、理論上は NPV法が優先 とされます。試験では「IRR法はNPV法より常に優れている」といった断定的な選択肢が誤りになるパターンが定番です。

覚え方と学習のコツ

  • NPVは「金額」、IRRは「率」。金額は足せるが率は足せない、と覚えると規模の問題が思い出せる
  • 採用基準はどちらも「資本コストとの比較」。NPVは資本コストで割り引いてプラスか、IRRは資本コストを超えるか
  • 計算問題は年金現価係数と複利現価係数の使い分けを確実に。毎年同額なら年金現価係数、年によって金額が違うなら各年の複利現価係数を個別に掛ける
  • 回収期間法や会計的利益率法と比較する問題も出るので、「時間価値を考慮するのはNPVとIRR」という線引きを押さえておく

計算そのものは四則演算だけです。手順を固定して数をこなせば、財務・会計の中でも確実に得点源にできる論点です。